ごっこあそび(平成13年度)平成14年2月

子供たちの、遊びの形態の中で大きな割合を占めているものに、「ごっこあそび」というのがあります。お母さんごっこやお店屋さんごっこなどが、その代表的なものですが、成長につれてごっこ遊びもだんだんと種類が変わってきます。お母さんごっこように、一番身近で大好きなお母さんの様子を再現するものから、お店屋さんごっこや病院ごっこ、電車ごっこのように、お母さんやお父さんと身近に経験したことから始まるごっこ遊びもあります。また、ウルトラマンごっこや怪獣ごっこ等、テレビのアニメからのもあれば、幼稚園生活の中で経験した行事などからもごっこ遊びに発展することがあります。

例年、音楽発表会が終わった後などは、子供たちだけで、先生になる子と園児になる子に分かれて、ごっこ遊びが始まります。木琴や太鼓を打つ指導をしたり、指揮をしながら、自分のクラスの友達に演奏させたりもします。どれも、先生の言っていることそのままのことを言いながら、声も身振りもそっくりにやっています。


これらはみな、模倣から始まるのですが、幼児は模倣することで大人の文化を吸収するといっても過言ではありません。
お母さんやお父さんにも思い当たることがあると思いますが、わが子が、お母さんやお父さんのしぐさそっくりにしていることがよくあります。模倣遊びは2歳ころから盛んになってきますが、3、4歳ころが一番頻繁に見られるようになってきます。
模倣には大人から見て二通りの種類に分けられます。一つは、鏡に向かって化粧をしているお母さんの様子を見て、その隣でお母さんそっくりのしぐさで自分も口紅を塗るように、その場ですぐに再現して遊ぶようなことです。

もう1つは、大人の行動をよく見ていて、それらを心の中にためておき、その子なりに事態を掌握または消化した後から再現しようとするものです。これは、眼前に無い出来事や経験を模倣再現します。ままごとや病院ごっこ、怪獣ごっこのような遊びです。これらの遊びを成り立たせるのに、何か実物を何かに置き換える「見立て」が大きな役割をします。砂をごはんに葉っぱをおかずに、木っ端を自動車にというように見立てて遊びます。このことは、すでに幼児がいろいろなものに対してイメージを記憶形成し、幼児個人のイメージの蓄積と関連付けながら、ある新しいイメージを生み出します。このような身近に見ことや経験したことを、ごっこ遊びで再現していくことで、その役割や出来事を自分のものとしていきます。これらの遊びを繰り返しすることで、経験を豊富にし、イメージを膨らませ想像力や作ったりする技能や創造力、友達との関わりの中でルールや社会性、文化を吸収していくことができるのです。


私の子供の頃は、男の子は戦争ごっこが中心で、木の棒を鉄砲や刀に見立てて、あぜ道や木の陰を砦にしたり、稲を刈った後の田んぼが戦場で、はんや(灰小屋)や川原や木の上に、木や竹で作った隠れ家を作って遊んでいました。その頃の子供は、戦争という大きな出来事を見聞きしていたからなのです。


先日の朝、まだ通園バスの一便が着く前に園庭に出て行くと、今田主任が「園長先生!」と深刻な顔をして、私を職員室に呼び入れます。入ってみると、年少のうめ組みの男の子たち6人が担任と一緒に座り込んでいます。「髪を見てください」と主任が言います。なんと、6人の頭は虎刈りになっているではあるませんか。
保育室には子供たちが自発的にいろいろな遊びができるように、ままごとコーナーや積み木コーナー、製作コーナー等発達過程に応じて、いろいろなコーナーを設定します。うめ組みの子供たち、いままでの経験の中から、すでに、はさみが上手に使えるようになって来ています。製作コーナーには画用紙や色紙などを用意して置いてあり、それらを使って、自分のイメージしたものを、切ったり貼ったりして遊びます。そこでの出来事でした。担任がバスに添乗していて、その間は、他のクラスの先生が時々様子を見に行くのですが、その隙間の出来事でした。一人の男の子が、仲良しの男の子のさんぱつを始めたのです。切る方も切られる方も楽しんでいます。それを見ていたほかの子供たちは、「おもしろそう」と、今度は自分の髪を切り始めます。そこに通りかかった隣のうめ組の子供も、早速、部屋に帰って自分たちも始めます。子供たちの話を総合すると、こういうことになります。そこに帰ってきた先生は、その様子を見てびっくり。でも子供たちはとても楽しそうにしているのです。そこで、先生は鏡を持ってきて、それぞれの子供の頭を鏡に写してやりました。それでも、ほとんどの子は鏡の自分を見てニコニコしています。中には、自分で切った髪を見て、「成功」と言っています。さんぱつ屋さんごっこになっているのですから、一生懸命切ったのですから、確かに成功なのです。担任はどうしたものかと、主任や園長に報告して相談しようと、子供たちを職員室につれてきたのです。他の先生たちも何人か集まっています。

笑うにも笑えず、お母さんたちに、どのように伝えてらいいいものかと、深刻な様子の先生たちの雰囲気を感じて、初めて大変なことをしたのだと気づいた様子で、しょんぼりし始めました。「楽しかったよね」と子供たちに声をかけて、お母さん方にはそのままを報告することになりました。