越冬ツバメ(平成12年度)平成13年1月

以前にツバメのことを書きました。今年のツバメも、カラスに襲われることから守ってやりながら、無事巣立ちました。幼稚園の車庫の上に巣を掛けるツバメは、毎年、2回ほどひなを産み、今年は7羽ほど育ちました。秋も深まり、だんだんと寒くなってきたころ、数日、電線にいっぱいツバメが集まっていましたが、間なしに、南の国に向けて一斉に飛び立ちました。ところが、12月の始め、夜明けには氷点下2度にもなろうとしていた頃の夕方、ツバメ2羽が車庫の上の巣から飛び出し、電線にとまったではないですか。


「ツバメがいる!!」と、女房の叫び声に、そこに居合わせたクリーニング屋さんは、「違いますよ、ほかの鳥ですよ」といいながら、目を凝らして見ていて、「本当にツバメです!」と驚いています。


そういえば、10月初旬頃から、自家用車の上にツバメの巣から、泥や糞が落ちていましたが、ツバメの巣にスズメでも入って利用しているのだろうと、気にも留めないでいたのですが、なんと越冬ツバメだったのです。こんな寒いところで越冬するとは夢にも思っていませんでしたので、ツバメと知った途端、無事冬が越せるかどうか心配になってきました。寒くなれば虫だっていなくなるし、雪が降ればどうするのだろうと、いろいろと心配になってくるのです。実際、落ちた糞を見れば、夏の糞のように中身がありません。水っぽい薄い糞です。虫がなかなか見つからず、お腹いっぱいに食べられないのかもしれません。「家の中に入れることはできないか」、「小鳥やさんから虫を買ってきて車の上に置いてやったらどうか」と女房も心配しています。

しかし、越冬ツバメを実際見たのは初めてでしたので、どうしたものだろうと思案に暮れていました。そこで思いついたのが、インターネットで「越冬ツバメ」を検索してみることでした。すぐに出てきました。「越冬ツバメの観察記録」という、日本野鳥の会・熊本県支部の三田長久さんの、熊本県白川市での越冬ツバメの観察です。12月の初めには250羽位見られていたのが12月末には数羽しか見られないとの記録があります。


早速、メールを入れました。その日のうちに三田さんからの返事が返ってきました。「伊達さんへ:熊本も冬の朝は氷点下2、3度ぐらいにはなりますので、越冬ツバメのねぐらでは何羽かは落鳥しています。冬でも昼間はあたたかくなるので、虫が飛ぶらしく、川面で飛び回って採餌しています。自然に生きるツバメは、自分が選んだ環境で生き延びられれば子孫を残せるということだと思います。ただ見守ってあげるしかないと私は思います。三田」(原文のまま)


やはりさすがと思いました。「自然に生きるツバメは、自分が選んだ環境で生き延びられれば子孫を残せるということだと思います。ただ見守ってあげるしかないと私は思います。」という言葉に、偉く納得したのです。これが自然の摂理なのです。自然界の動物は、いろいろな天敵や日照り、暴風雨等の自然の厳しさや様々な困難に出会い、その中で生き残ったものだけが子孫を残していくのです。それは、強い子孫を残すことにつながるのです。強い動物は数少なくしか子供を生みません。弱い動物は数で勝負します。そうやって、自然の均衡がとれているのです。三次での越冬ツバメは、いつまでも暑く、冬の近づいたことを敏感に感じられなかった、今年の異常気象が原因しているのかもしれません。


21世紀がスタートしました。先のことから考えると、20世紀はその自然の均衡を破壊してしまった世紀でもあったように思います。特に、後半の50年はその顕著たるものでした。戦争はともかくも、農薬や排気ガス、生活排水や工場排水、ダム建設や河川改修、港湾での建設工事、工業や農業のための海岸線や湖の埋め立て、住宅や工場団地建設のための山を削っての団地造成、埋め立てゴミやダイオキシン等々、数えればきりがありませんが、これらのすべては、人間の生活や経済の向上発展、災害防止と財産保持等のためでした。


このように、限りなく自然を破壊している人間の姿は、地球の自然回復力の限界を超えてしまい、人間や動植物が地球に存在することすら危ぶまれる始末です。オーストラリアのように、オゾン層の破壊で強い紫外線のため、子供たちは、防御服やサングラスをかけて生活しなければならない国も出始めました。南極や北極の氷も溶け始めて、すでに、南洋諸島の島では海岸線にそった低地が、だんだんと海の中となり始めたのです。自然の均衡がとれなくなり始めているのです。

この新しい21世紀に生きる子供たちを、一生懸命育てられているお父さんやお母さんのように、たちまちの子供の健康や幸せが心配になってきます。私たち大人がしなければならないことは、子供や孫、その先の、またその先の子供たちのためにも、自然を守り大切にして、地球環境を、弱い動物や魚、蛍やメダカも住める環境を取り戻す努力が必要です。それは、自分自身が破壊者にならないよう、少しでもゴミを減らすようなこと、意識すれば誰でもできる、一人ひとりが身近なことから始めるしかないのです。21世紀の始まりに、世紀をまたいだ越冬ツバメが教えてくれました。