お世話になりました(平成11年度)平成12年3月

先日、本年度最後の役員会が開催されました。すべての行事が終わり、卒園式と修了式を残すのみとなっていますので、議案は本年度の反省ということで開催されました。

その時、役員一人ひとりの方に、1年間役員をしてみて感じたことなど、感想を中心に話していただきました。嬉しいことに、「役員を引き受ける前は大変だとばかり聞いていたが、そう思うことは何一つなく、すごく楽しかった」、「たくさんの子供と関わることで、わが子に余裕を持って接することが出来るようになり、子育てがすごく楽になった」、「お母さん同士、友達になれてすごく嬉しかった」、「我が子の普段の姿を見ることが出来、とても安心した」、「先生達が一生懸命やっておられる姿を見ることが出来てよかった」等々、役員をやってよかったと全員の方からいっていただきました。中には、「私はわが子さえ好きになれなく、子供は嫌いだ」といわれていたお母さんが、「たくさんの子供と接するうちに子供が大好きになってきた」と、お母さんの気持ちが変わっていった嬉しい報告もしてくださいました。

近年、地域社会のつながりが薄くなって来ており、交通事情などで子供たちの安心して遊べる場所も少なく、また、少子化も手伝って近所で一緒に遊ぶ子供が少なくなってきています。そんな中、役員をすることで多くの子供たちやお母さん同士が関わり合え、そのことが、役員をしていただいた方々の、「役員をしてよかった」という気持ちにつながったのではないかと思います。幼稚園側から見ると、行事のお手伝いなど、いろいろとご無理なことをお願いしているのに、そんな風にいっていただくと、とても嬉しく、気持ちが楽になります。役員の皆さん、本当に有難うございました。心より感謝申し上げます。また、役員の皆さんを支えてくださいました保護者の皆様にも厚くお礼申し上げます。


その役員会の席で園長の話としてした子供たちとのエピソードを紹介します。
実は、1月8・9・10日と連休で、久しぶりにゆっくりとした時間がとれたので、園庭の生い茂った樫の木を切ろうと、長年、使用しないままでいたチェンソーを出してきて、脚立の上に乗って切り始めました。田舎生まれの私には、そういう作業はお手のものなのですが、チェンソーの歯が悪く、なかなか切れず、木を倒す方向に切り込みを入れることが十分に出来ないで、中途半端な形のまま、切り始めました。案の定、予定の方向に倒れないで、私の方に覆いかかってきました。逃げる暇もなく、脚立と共にコンクリートの上に投げ倒されてしまいました。幸い、頭を打たなくてすみましたが、身体のあちこちを打撲し、けがをしました。脚立に挟まった足で脚立が大きく曲がるほどで、右足の2カ所は、かなり深いところまで切れていました。足の骨の丈夫さに自分で感心しながら、病院に行ったらおそらく何針も縫われたと思いますが、連休中でもあるしと病院にも行かず、我が家での治療で治しました。

そのけがをした2日後、始業式があり、子供たちの部屋をまわると、年少組の子供たちが、だっこや両手を持ってでんぐり返しをするよう要求してきます。いつもは、自分も楽しみながらするのですが、「ごめん、園長先生、足にけがをしているから、治るまで待ってね」と、足の包帯を見せてやりました。子供たちは、「どうしてけがしたん」、「いたかった?」と気遣ってくれます。その後も、保育室をまわるたびに,「あしなおった?」と気にしてくれています。そして、1か月経った頃、けがをするまでは、「だっこして」といつもいっていた子が近寄ってきたので、そのままだっこしてやると、すぐにすべり降りて、「あしなおった?」と訊くのです。「あ、そうか。足のけがを気遣って我慢してくれていたんだ」と気がつき、しっかりと抱きしめてやりました。

その部屋を出るなり、やはり年少組の女の子が、私を追いかけてきて、「園長先生、わたし、もも組になるとき、遠くに引っ越すの」といいます。「え~、ほんとに!、園長先生、寂しくなるよ」というと、「だいじょうぶだよ、もも組になるときだから、まだ、だいじょうぶだよ」と逆に慰めてくれるのです。「もうすぐなのに」と思いながらも、慰めてくれているその子のことを思いながら、そのまま、年中組のクラスに入りました。

男の子が小走りに近寄ってきて、「あしなおった」と訊くので、「うん、治ったよ」といった途端に、両手を持って、でんぐり返しを始めます。この子も、「ずっと待ってくれていたんだ」と思いながら、何回もでんぐり返しをしてやりました。年長組の部屋に行っても、「あしなおった?」と訊くので、「治ったよ」というと、何人もの子供が飛びついてきてくれました。

そして参観日が終わった数日後、年長組のクラスから、子供たちで作った招待状が来ました。それは、「参観日のとき、園長先生は自分たちの劇や歌を少ししか見ることが出来なかったから、招待するので見に来てください」というものでした。部屋に行ってみると、参観日に来ることが出来なかったお母さんにも招待状を送っていたようで、入園前の弟と一緒に来ておられました。そして、劇をしたりうたを歌ってくれました。胸をじーんとさせながら最後まで見ました。終わると、「どうだった」と訊くので、「園長先生ね、今、胸がじーんとして涙が出そうなの」というと、「どうして耳を持って泣くん?」という言葉が笑いを誘い、その言葉で気持ちを取り戻しながら、「ありがとう。とっても楽しかったよ。それと、みんなとても優しくて、仲良しで友達思いですてきだよ。小学校がわかれわかれになっても、友達のことを忘れないでね」と、いうのがやっとでした。

お父さんの転勤で引っ越すことになって、「まだ、だいじょうぶだよ」と逆に慰めてくれた女の子も、年少組や年中・年長組の足を気遣ってくれていた子も、みんな優しく、大人に対しての気遣いがこんなにもできるものだと、あらためて感心することが出来ました。前にも話したことがあると思いますが、人は愛されたり、思いやりを受けて育つことによって初めて、相手を思いやったり愛することが出来るのです。すてきなお父様やお母様の愛をしっかりと受けながら、順調に育ってくれていることをとても嬉しく思います。