お手伝い(平成9年度)10月

子供が小学校の高学年や中学生になっても、家事の手伝いを全然してくれないと嘆いているお母さんの話をよく耳にします。お母さんがどんなに忙しくしていても、体調が悪くても何一つ手伝おうとしてくれないのです。「たまには手伝いなさい!」と叱っても知らん顔するか、反抗的な態度をとるのです。そういう子供がずいぶんと多くなってきているような気がします。何故でしょう。


多くの場合、幼児期から小学校低学年のころの子育てのあり方に原因しています。皆さんも度々経験されると思いますが、3歳4歳頃になって、お母さんがしていることと同じことをしたがります。お母さんが料理をしたりアイロンかけをしていたら自分もしてみたいのです。ところが、たいていの場合、茶わんを落としたり汚したりしますから止めさせてしまいます。アイロンもやけどをしますから禁止します。まだまだ幼いですから、かえって邪魔になる方が多いので、「遊んでなさい」ということになります。ここのところを大切にして欲しいのです。

せっかく子供が興味を示しているのに止めさえてしまうと、のちには、なんの興味も示さなくなります。その子の能力に応じた対応をしてやることが大事なのです。お肉を炒めているのを見て、子供もしたがったら、お母さんが補助役にまわって、少しぐらいさせてやれば良いのです。その時に、ガスを勝手に使ったらとても危険であることを知らせるのです。アイロンかけをしたがったら、アイロンの熱さを知らせるために水を少しつけ、「ジュッ」となるところを見せて、危険を知らせてから、少し熱のさめるのを待って、子供のハンカチ程度のものにアイロンをかけさせてやるのです。洗濯物をたたんでいると子供もしたがります。きれいにはたためませんが、せめて自分の下着だけでもたたませてやると、とても喜んでやります。お父さんが日曜日に車を洗っていると子供も洗いたがります。一緒に洗うと子供はとってもうれしいのです。


幼児の頃には、毎朝、新聞を入れることを仕事にしてやることも良いでしょう。オモチャの片付けでも良いでしょう。そして、小学生になったら、子供部屋が有れば、自分の部屋は自分で掃除をさせるのです。


このようにしていると、子供の成長とともにいろいろな手伝いをしてくれるようになります。小学生にもなると、本当のお手伝いができるようになります。そのお手伝いを通して家族の一員としての自覚が強まりきずなが深まるのです。中学生になったのだからと急にさせようとしても、もう遅いのです。


家事の手伝いは家庭教育としての大きな役割を担っているのです。子供の人格形成に大きな役割を果たしてくれます。子供の生活力を育てることにもつながるのです。家庭での役割を持って育った子供は、家庭外での役割をも自信を持ってやり遂げます。勉強も仕事も自分の役割を考えて主体的に関わる力が育まれているのです。


登校拒否を起こした子供の多くが、家事の手伝いをほとんどしたことがないといわれています。その理由の多くに、お母さんが勉強することばかり要求し、成績第一主義に陥り、手伝いは勉強の邪魔になると手伝わすこと無く育てたことによるのです。そういうふうに育てられた子供は、思春期をうまく乗り越えられないことが多いのです。そして、突然に勉強しなくなったり、反抗的な態度をとるようになったり、不良になったりすることさえも有ります。

家の手伝いをしっかりして育った子供は家族の絆がしっかりできていて、家族での団らんも多く、自発性が育っていますから自分から進んで勉強をするようになりますし、思春期も正しく乗り越えていきます。そういえば、今の若い人たちの中に、料理のできない人がたくさんいます。料理のみならず、りんごの皮すらむけない人が大勢います。ナイフも包丁も使ったことが無いのです。子供のときから「手伝い」の経験が無いのです。手伝いをしっかりして育った子は、家族で食事をとることの楽しさをしっていますから、男女を問わず、料理も積極的にするようになるのです。
私たちは子供たちが幸せな人生を歩んでほしいと願って子育てしているはずです。家事の手伝いも、幸せな人生を過ごすことのできる能力を育んでいるのです。子供と一緒に家事をしている楽しさをしっかりと味わってほしいのです。きっと、子育てしていることの幸せを実感してもらえると思います。