子供の優しさ(平成8年度)6月

5月のある日、年中組のクラスで男の子が泣いています。しばらく様子を見ることにしました。BくんがAくんに「ごめんね。ごめんね。」と一生懸命、言っています。それでもAくんは泣き続けています。「ごめんね。ごめんね。」とBくんが許してくれるよう、何回も何回も嘆願しているのに「うん」と言ってくれないので、とうとう、Bくんも泣き始めました。廻りに数人の子が様子を見に集まってきました。「どうしたん?」とCくんがBくんに聞いています。「あのね。あのね。ボクが後からAくんを押したら転んで泣きだしちゃったんよ。じゃけ、ごめんいっとるのに許してくれんのんよ。」と言って、また、泣きだします。


今度はAくんに向かって聞いています。「ほんまに後から押されたんか?」「うん。」「まだ、いたいんか?」「ううん。」と首を横に振ります。「いとうないんじゃったら許しちゃれーよ!」とCくんが言うと「うん。」と言って首を立てに振りました。
「Aくんがウンいうたけ、あんたも泣くのをやめーや!」とCくんが促すと、Bくんが「Aくんごめんね。」ともう一度言うと、Aくんも「うん。」と言って二人とも泣きやみ、何事もなかったかのように、もとの遊びを一緒に始めました。


初めて集団生活をする子どもにとっては、一つの遊具で一緒に遊ぶことの経験が少なく、その遊具を独占しようとしてトラブルとなることがよくあります。
このようなトラブルは、子ども自身で解決していきます。今回のように、友だちが、あいだに入って解決することもあれば、自分の欲求と相手の欲求のぶつかりあいの中から、何回もトラブルの経験を通して、お互いの気持ちを理解する能力や相手を思いやる気持ちが培われ、一緒に遊ぶ楽しさを獲得していきます。


先日、卒園後、広島に転勤で引っ越された家族の方が訪ねて来られ、一緒に来た2歳の男の子が、園庭で野球をして遊んでいる年長組のところに入ってきて、ボールを捕りたがっています。それを察した男の子が、ボールを転がしてやっています。それを拾った2歳の子がピッチャーのつもりで投げています。それを見守っている年長組の子どもたちの笑顔が素敵でした。年長組にもなると、遊びの邪魔と思うこともなく、受け入れてくれているのです。


幼稚園の中で、このような優しい場面は、いろいろと見ることができます。いまでも、年少児の手をつないでお部屋に連れていってくれている女の子や、動物に餌をあげるのを手渡しやっている子、などといろいろあります。
子どもの優しさはどこから来るのでしょう。それは、お父さんやお母さんを始め、まわりの人から優しさをたくさんたくさん受けてきているから、その子に優しい心が育つのです。特に幼児期に優しさをたくさん受けて育つことが、情緒の安定と人格形成において、何より大切なのです。