お寺(平成17年度11月)

10月1日に三次市西酒屋町にある浄土真宗本願寺派の源光寺で、《門信徒の集い・トーク&ライブ2005「一期一会」3》と言う集いがありました。私の家は禅宗の臨済宗ですので宗派は違いますが、その集いのトークショーで子育てについて何か話をして欲しいと言うご住職からの依頼がありました。今までの私のお寺へのイメージから言うと、宗派によっては呼び方が違いますが、住職さんや和尚さんが門信徒や檀家の人達に法話や説教をしてくださると言う思いが強くありましたので、講師の依頼があったとき、一瞬、戸惑いましたが、幼稚園の保護者でもあるし、私自身、2年前から東酒屋町に居を構えたこともあって、地域の方々へのご挨拶代わりと思い、快くお引き受けしました。そのトークの内容は、『お爺さん お婆さん そして貴方も出番ですよ! ~子育て・孫育てを語りましょう~』と言うテーマで、ご住職さんとの対談と言う形で、一部と二部とに分けて行われました。


そこでの話の内容についてはここでは触れませんが、本堂もいっぱいで廊下まで立って、多くのお爺さんお婆さんから若いお母さん達も聴いてくださいました。その対談のときに、住職さんから幼稚園を運営してきて、「一番嬉しいことはどんなときですか」と言う問いかけがありました。そこで私はいろいろあるけれど、「子供が夢中になってしっかり遊びこんでいる様子を見る時と、卒園児が大人になってからも訪ねて来てくれる時。」と言うようなことを、具体的な出来事を紹介しながら話をしました。


そして第一部が終わり、第二部のトークが始まる間は控え室で次の出番を待っていました。しばらくすると、住職さんのお子さんで、小学校2年生の卒園児の清道(せいどう)君と幼稚園年中児の清賀(さやか)ちゃんが挨拶にやってきてくれました。最初に清道君が正座して両手を着いて、「今日は大変お世話になります。」と丁寧に挨拶をしてくれます。それに続いて、清賀ちゃんが、ちょこんと座って、「お世話になります。」とペコンと頭を下げました。するとお兄ちゃんが、「ちゃんと座って、両手を着いて挨拶をしなさい。」と言って妹にやり直しをさせます。そうして改めて丁寧に挨拶をしてくれました。


さすがお寺のお子さんだとほほえましく思いながら感心していました。そう言えば、そのように正座をして挨拶してくれる子供には、最近、出会っていないことに気付きました。もっとも、畳のある家で子供達に出会っていないだけかもしれませんが、それでもやはり、正座して挨拶する子供はかなり少なくなっているだろうと言うことは想像に難しくはありません。お寺ですから、大抵、畳が敷いてあります。住職さんとその家族の大人の方は、お寺にお参りに来られた方やお客さんがいらっしゃると、いつも正座して両手を着いて挨拶をされているはずです。そのお子さん達は、そこでの日常の生活の中で毎日その姿を見ています。その子達のお父さんやお母さん、お爺ちゃんやお婆ちゃんや、周りの大人の姿を見て育っています。私のところに来て正座して両手を着いて挨拶をしてくれたのも、ごく自然にできるようになっているのだと思いました。あるいは、お婆ちゃんから言われてそうしたのかもしれません。そのどちらであっても、毎日の生活の中で獲得していくマナーは、突然に言われてもできません。周りの大人の姿を見ながら、ときには教えてもらいながら身に付いていくものなのです。家庭での躾(しつけ)は大人の生活の在り様でもあるのです。


そんなことを思っているところへ、今度は高校生が、「失礼します。」と言って入ってきました。卒園児の里佳ちゃんです。やはり正座をして挨拶します。彼女の家は南畑敷です。家からお寺まで距離があり、遠くから来ているので、「門信徒なの?」と訊くと、「門信徒ではないけど、小学生の頃から毎月このお寺で開催される『ルンビニ子ども会』に来ていて、毎年のサマースクールにも参加していました。今日はこのライブの準備の手伝いに来ました。」と言います。高校でのサークル活動で紙芝居を子供達に読んでやるため、保育園や幼稚園を回っていると言います。三次中央幼稚園にも私の留守の時、来てくれたと話してくれました。幼稚園の時は一番背の低かった里佳ちゃんですが、すっかり大きくなっています。「何年生になったの」と訊くと、高校3年生だと言います。「じゃあ、進路はどう考えているの」と続けて訊くと、「広島の短大を受験して幼児教育を専攻する予定です。」と言います。嬉しいではないですか。やはり、卒園児の成長を見ることはとても嬉しいものです。第二部が始まるまでの楽しい一時を過ごすことができました。それと同時に、このお寺で、地域の子供達が勉強したり山登りをしたりしながら、それらの活動を通じて、何か見えない偉大なもの(サムシング グレート)を信じる畏敬の念を培っておられることに大変ありがたく敬意を表したい気持ちです。


大きな言い方をすれば、私達は自然の偉大なる宇宙の摂理の許(元)で生かされています。その自然の偉大なる宇宙の摂理に対して、信じる心と感謝する心を持ち合わすことができる人になれたら、どんなに心豊かな生活ができるでしょう。「もったいない」、「ありがたい」「おかげさまで」と言う日本の心の文化を伝えていきたいものです。


話は変わって、10月中旬に入って静岡県のある幼稚園の啓介先生(37歳)という男の先生が、1週間ほど、この三次中央幼稚園に研修に来られました。幼稚園の後継者の方が毎年3、4名ほど県外研修ということで、静岡県私立幼稚園協会から推薦を受けた幼稚園に派遣されているというのです。子供達は、久々の男先生とあって大喜びで、「啓介先生、啓介先生」と、瞬く間に仲良しになっていました。子供達が降園した後は、私はもちろんですが、園長や主任、先生達もいろいろと幼児教育の本質や在り方を、いっぱい、いっぱい伝えようと、気持ちよく関わって受け入れてくれました。彼が三次中央幼稚園の幼児教育に対する考えと教育方法をどこまで理解してどのように感じて帰られたかは、彼が将来、幼稚園の園長として、子供の育ちに対してどのような願いを持ち、どのような教育方法を実践されていくかによって表れてくるのではないかと思います。
「啓介先生、頑張れ!」と、三次からエールを送り続けます