おふくろの味(平成20年度1月)平成21年1月

新年明けましておめでとうございます。
昨年は、年の瀬に急激に悪化した経済情勢に世の中が重苦しいムードに包まれました。しかし、幼稚園で可愛い無邪気な子供達に囲まれて過ごす時間には、そんな暗い雰囲気など少しも感じませんでした。おもちつきをしたり、サンタクロースにも会ったりと、年末をしっかり楽しみました。そんな子供達の笑顔や笑い声はいつも素敵です。どんな時でも子供達のおかげで明るく元気になれます。子供達はまさしく未来の希望だと思えます。


さて、今年はどんな年になるのでしょうか。子供達の笑顔の絶えない明るい世の中になりますように…。そして、そうなるために私達の役割は何かを考えながら、この1年を大切に過ごしたいと思います。


そんな事を思いながら年末から年明けを過ごしていました。今年も我が家では、子供達と一緒におせち料理を作りました。お客様があるので、おせちの他にもいくつか料理を作っておきます。我が家のおせちに必ずお目見えする献立があります。それは、“ポテトサラダ”と“筑前煮”です。これは、家族全員からの毎年のリクエストメニューです。以前は、私一人で作っていましたが、ここ数年子供達が手伝ってくれるようになりました。(思春期に入った上の娘は少し面倒臭そうではありましたが…。)みんなで味見をしながらの正月支度は時間がかかりますが楽しいものです。子供達は、「お母さんのポテトサラダが大好き!」といつも言ってくれます。筑前煮を作れば、「そうそう!この味この味!」と言って喜んで食べてくれます。

そう…それは、何十年か前に私が私の母に言っていた言葉です。どこのどんな家のポテトサラダを食べても、どんなお店でも、お母さんの作るポテトサラダのおいしさにはかなわないと思っていました。私の弟は、「お母さんの筑前煮しか食べられない。」と言っていました。これが、食卓に並ぶととても嬉しかったのを覚えています。「お母さんのポテトサラダはおいしいね。私にもこの筑前煮を教えて。」と子供の頃からお母さんが台所に立つ時には、必ずと言っていいほど隣で手伝いながら見ていました。(…と言うか、家業が忙しいので子供が手伝う事は当たり前の事でした。)特別な食材を使っているわけでもないのですが、お母さんなりの工夫がある事やこだわりがある事をそうするうちに知ったのです。真似て作るたびにお母さんと同じ味になる事が嬉しくて、いつの間にか私の数少ない得意料理の一つになりました。

結婚して新しい家族に作ると「おいしい」と受け入れてもらえ、今では、家族から“お母さんの味”と言ってもらえています。でも、私がお嫁に来て義母から教えてもらった料理の中には、未だに義母の味にならない物があります。“酢の物”です。義母の酢を使った数々の料理は本当においしくて、結婚して間もない頃、夫と二人で海外旅行に行き外国の食事にうんざりした時、ずーっと“義母さんの酢の物が食べたーい!”と思って過ごしたのを覚えています。私がいくら真似をしても同じ味にならないのです。そんな義母も8年前に亡くなり、“義母の味”を“私の味”にする事ができないままになってしまいました。そして、“お母さんの味”を教えてくれた母もまた昨年突然亡くなりました。


母が作る煮物もポテトサラダも、もう二度と食べる事はできないけれど、私が母から受け継ぎ、大切な家族に食べさせる事で母の味はいつまでも生き続けるのです。子供達が「お母さんの味だ。」と言ってくれるたびに、私は母の事を思い出すのでしょう。子供達に「これは、おばあちゃんがお母さんに教えてくれた味なんだよ。本当は“おばあちゃんの味”なんだよ。」と話した時「じゃあ、この味を私達が覚えて、同じ味になるようになったら、私達の子供には“ひいおばあちゃんの味だよ”って教えてあげないとね。」と言ってくれました。“おふくろの味”はこうしていつまでも思い出の味として残っていくのでしょう。将来この家から離れて暮らす事になるだろうこの子達が「お母さんのあの料理が食べたいなぁ。」と故郷の忘れられない物の一つとして、思い出してくれれば…と思うのです。私が未だに同じ味が出せないでいる義母の味も、いつか義父や主人に「お母さんの味だね。」と懐かしんで食べてもらえるようになりたいと思います。義父と主人にとっての“おふくろの味”が途絶えてしまわないように…。

どのご家庭にもそんな“おふくろの味”があるのではないでしょうか?どうか、子供達に、その味を伝えてください。その料理こそ大切な『家宝』だと思うのです。


昨年のお正月、母から教えてもらい初めて煮た黒豆、母に食べてもらったら「ふっくらとおいしく良い色にできたじゃない。合格!」と言ってくれました。私が煮た母認証の黒豆が重箱に入るのは今年で2度目です。また、母のいなくなった実家に帰ったら、筑前煮が作ってありました。一口食べたら、それは“お母さんの味”でした。弟のお嫁さんが受け継いでくれている“おふくろの味”です。私は仏壇に手を合わせ、お母さんに話しました。──「お母さん、およめさんの筑前煮がおいしいよ。私達に家宝をありがとうね。」