夢を支える(平成20年度9月)

今年の夏も異常な程の暑さでした。地球全体が悲鳴をあげているような気がします。そんな中今年は北京でオリンピックが行われ、様々な種目で世界記録が塗り変えられました。人間業をはるかに超越したそれらの雄姿に感動をおぼえました。オリンピック選手の姿は子供達の目にどのように映ったでしょうか。金メダルを首にかけた世界チャンピオンは特別に輝かしく見えたに違いありません。メダルには届かなかったけれど、庄原市から競泳女子200m平泳ぎの選手が出場!みごと決勝で7位入賞というビッグニュースに拍手喝采しました。田舎のスイミングスクールからオリンピック選手が出たと驚き、「ぼくもオリンピックに行きたい!」「私もいつか!」と子供達に夢と希望を与えました。また、これまではオリンピック種目でありながらも特に取り上げられなかったバトミントンも、いわゆるオグシオ効果でバトミントンのラケットがとぶように売れたそうです。その経済効果もさる事ながら、人々の心を一気に揺さぶった事に驚かされます。自分もあんな風に走りたい!泳ぎたい!戦いたい!と夢を見させてくれるのです。


あるメダリストが、「メダルを手にした瞬間、誰が思い浮かびましたか?」というアナウンサーのインタビューに「両親です。そして、自分をこれまで応援して支えてくださったたくさんの方の顔が思い浮かび、感謝の気持ちでいっぱいです。」と答えていました。戦いの一瞬しか知らない私達には、それまでにどんな苦しみや厳しい試練や自分との戦いがあったかなんて計り知れません。それは、間近で見てきたご両親が一番よく分かっておられるのです。そして、叱咤激励しながら、共に夢を追い続けて来られたのです。


子供達はみんな、夢を見て、夢を描いて、夢を追っていずれ自分の進む道を選んで生きて行きます。その途中に自分の夢に共感してくれる人が存在していれば、「自分にもできそうな気がする。」と夢実現への光が見えてきて力が湧き、挫折しそうな時も立ち上がれるエネルギーが持てるのです。


高校生になる直前になって始めたボクシングで、今やウェルター級国内高校生の2位で頑張っている卒園児がいます。幼稚園の頃は、どちらかと言えばやんちゃで友達ともよくトラブルを起こす男の子でした。だけど、その分、情に厚く、分かり合えた友達の事はとても大事にする“いい奴”でした。そのお母さんは、その子の良いところをちゃんとわかっておられるよき理解者だったようです。心と体を鍛えたその子は、まっすぐに自分の夢に向かって頑張っています。また、中学受験と同時に頑張っていたフィギアスケートへの夢も諦めきれず、「この子の夢を叶えてやりたい!」とご両親が決心され、受験をやめてスケート一本に絞った卒園児が、今や、浅田真央も夢じゃないぐらいの力をつけ、国体等でいつも輝かしい成績を上げています。その子とご両親に先日再会し、「この子の今があるのは、毎日がむしゃらに遊ばせてもらった幼稚園の環境や遊具のおかげなんです。」と言ってくださいました。受験をスパッ!とやめて、子供の夢を支える決心をされたという知らせを聞いた時、その潔さに感動したのを覚えています。その子は「私は、ずーっとお父さんやお母さんに感謝してる。」と話してくれました。


スポーツだけではありません。子供がキラキラした心で夢を話してくれる時、それがどんな夢であっても、どうぞ、子供と向き合ってしっかり聞いてやってください。一緒にその話に夢中になってやってください。「何つまんない事を言ってるの!」とか「無理に決まってる!」なんて決して言わないでください。その内容は“つまらない事”でも“無理に決まってる事”でも、夢を見るその気持を持つ事が大事なのです。夢は人生の目標にもなります。生きるエネルギーになるのです。そして、それを聞いてやるだけで、夢はどんどん膨らむでしょう。今ある力が何倍にも大きくなる事だってあります。夢を支えるとは、直接何かの手立てやお膳立てをする事だけではなく、夢を見させてやる事、夢を聞いてやる事から始まるような気がします。


私も、幼い頃から、夢を見るのも語るのも好きでした。一番の理解者は母でした。母には何でも話をしていました。幼稚園の先生になりたいという夢もいつも聞いてくれていました。ただ聞いて共感してくれていただけでしたが、そのうち夢がどんどん膨らんで、夢は夢に終わらない気がしてきました。京都の幼稚園の就職試験に合格・採用が決まった時には、やはり両親の顔が真っ先に浮かびました。夢が叶った事を誰よりも喜んでくれる人だからです。


先生になっても、「こんな先生になりたいんだ。」という話を真剣に聞いて意見を聞かせてくれる私のよきアドバイザーでした。


どうぞ、子供達と一緒に夢を見て、夢を支えている事を感じさせてやってください。大きくなっても、夢のない…夢を見つけられない子供達にするのは、私達大人のせいなのかもしれませんよ。
後に、母は私達子供に家業を継がせ、家族皆で店を盛り上げるという夢をもっていた事を聞きました。今、あらためて“私の夢を応援してくれてありがとうございました。”と言いたいです。