気持ちを伝える(平成27年度2月)平成28年2月

温かい年明けだ!と安心していたところ、先週末には約40年ぶりの猛烈な寒気が流れ込み、幼稚園でも休園の措置をとりました。ご理解とご協力をいただき、ありがとうございました。自然のご機嫌は油断できないものだと痛切に感じています。

そんな寒さにも負けず、子供達は毎日元気に幼稚園で遊んでいます。大人の心配をよそに、この度の寒波による雪では、思う存分に雪遊びを楽しんでいました。そんな中、寒さのせいか?ちょっとした友達とのトラブルからか?登園した姿のまま、保育室に座り込んで泣いている年少組の女の子がいました。わけを聞いても泣きじゃくるばかりでわかりませんでしたが、体調が悪いわけではなさそうです。とにかく誰かに抱っこしてもらっていないと涙が止まりません。気を紛らわせるために、その女の子を抱っこして、園内を散歩していると、少し落ち着いて来たので職員室に連れて行き、涙が止まったご褒美に私が持って来ていたリンゴを一かけ口の中に入れてあげました。

翌朝、その女の子がテラスにいる私を見つけ、遠くから「ようこせんせ~い!」と呼んでくれました。髪を振り乱して泣いていた昨日とは違って、三つ編みのおさげ髪で可愛い笑顔でした。「おはよ~う!」と言うと、何かを手に走って来てくれました。「これ!」と言って私にビニールの手さげ袋をくれました。中には、お弁当箱が……そのふたを開けてみると、いろいろな種類のおやつが入っていました。そして、手紙も…。その手紙には、絵と、たどたどしい文字が書いてありました。「ようこせんせい だいすき」「ありがとう」と……。3歳児ですから一生懸命に書いてくれたのでしょう。やっと読めるくらいの字でしたが、それだけに私は嬉しくてたまりませんでした。後からお母さんに聞くと、「夜、葉子先生にあげるんだと、クリスマスの時にもらったおやつの箱の中から一生懸命選んでいました。字も、お手本を書いてあげたら、それを見ながら一生懸命に書いてたんです。」と言われていました。さらに「手紙を書いたのも初めてだったんです。」…と。私は、その子がその時にどんな気持ちで、慣れない鉛筆を握ってどの位時間をかけて書いてくれたかを想像すると、本当に愛おしく思えました。『ありがとう』の気持ちがひしひしと伝わってきました。私はそれから返事を書きました。彼女がどんな気持ちで読んでくれるのかを想像しながら…。

この時期になると、お正月の年賀状のやりとりがきっかけとなり、お手紙ごっこが流行ります。職員室にも、園長先生や私に郵便屋さんに扮するお当番さんが配達してくれます。はがきにクイズ問題を書いて送ってくれる子や、“ようこせんせい、がんばっておしごとしていますか?”と書いて様子を伺ってくれる子、お弁当を一緒に食べていろいろな話をした子からは“ようこせんせい、またいろんなおしゃべりがしたいです。”という手紙が届いたりして、それを読むととても楽しいです。その手紙に対して、私は、また返事を書きます。そして、お互いに自分の気持ちを相手に伝えたい一心で、文字を使い気持ちを表現するのです。

年長組には、日々の生活の中で、心に残った事や思っている事、感じた事を日記や作文にして、家でノートに書き、園長先生や担任の先生に持って来る子がいます。それを読むだけで、その子がどんな事を感じているのか、どんな楽しい気持ちや嬉しい気持ち、悔しい気持ち悲しい気持ちだったのかが伺えるのです。園長先生は、その子のノートに返事を書きます。こんなやりとりがずっと続いているようです。

子供達は、文章・言葉・絵・音楽…等いろいろな方法で、自分の気持ちを相手に伝えようとします。そして、自分の気持ちが相手にちゃんと伝わる事の気持ちよさや嬉しさを感じます。人に伝えたり自分に伝わったりするその間にはいい関係が生まれます。心が通い合うのです。親子の間でも子供達がいろいろな方法で、気持ちを表現しているのを感じる事がありませんか?まだ動けない話せない赤ちゃんの頃には泣く事で気持ちを伝えようとします。少し大きくなると、わがままを言ったり身体全部を使ったりして訴えてきます。大人に近づくにつれて、相手の気持ちを伺ったり理解したりしながら、文章や言葉でわかるように伝えるようになります。

小さな紙に書いた先生への手紙、ほんの少しの言葉だけれど、これが大きなコミュニケーション能力の育ちやきっかけになります。「どうしたの?」と聞いた時に表現する力がある子は、その理由やどうしてほしいのかを伝える事ができるでしょう。嬉しい時には“嬉しい”と、悲しい時には“悲しい”と、はっきり意思表示ができる子になるでしょう。そのためにも、心に残る経験やその時に感じた事を表現して伝える事ができる環境をつくってあげてほしいと思います。子供が、「おかあさん、あのね…」と話す時、文字にしたり絵を描こうとしたりする時、歌を口ずさんでいる時、その時々の子供の気持ちを受け止めたり返してあげる事で、増々子供達は気持ちを伝える楽しさを感じるはずです。

そうは言っても、気持ちを上手に伝えるという事は、大人になってもなかなか難しいものですよね…。