伝えたいもの(平成29年度7月)

梅雨入りしてからしばらくは夏を思わせる天気が続きましたが、ここに来てやっと梅雨らしくなってきました。今月から始まったプールあそびでは子供達の歓声が上がっています。プールあそびだけでなく、小川や砂場や園庭では水や砂や泥まみれになって、開放感を十分に味わっているようです。これから夏に向けて、この時季ならではのあそびをたくさん経験しています。

三次中央幼稚園では、毎週木曜日に“なかよしタイム”といって、園児全員が園庭に出て、園長先生の話を聴いたり、みんなで体操をしたりする日があります。園長先生が『梅雨』について日本には四季に加えてこのような季節がある事を分かりやすく話してくださいました。初めて耳にする子もいたでしょう。それを受けて、先生達も子供達に更にわかりやすく説明します。「みんなで植えたアサガオやヒマワリやサツマイモやお米も、雨が降ってくれないと、美味しく育たないんだよ。雨がたくさん降る“梅雨”は、自然にはとっても大切な季節なんだよ。」と、子供達が経験した活動と絡めながら話していました。

満3歳児クラスでは、雨降りの日にバケツを置いて雨だれを受けて響く音を聞きながら雨を感じていました。年少組では、窓の外で鳴くカエルの声に耳を傾けて聞き入っています。あるクラスではカタツムリを飼ったり、オタマジャクシの観察をしたりもしています。このように、何となく日々を過ごすのではなく、その時季にはその時季の楽しみ方や感じ方がある事を、私達大人は教え伝えないといけないと思います。その時に伝える事で、子供達は色々な経験や物の存在を結び付けて知識にしていきます。

幼稚園では、あそびも歌も活動も全てが季節と隣り合わせの生活です。この時季になると、保育室から『茶摘み』の歌が聴こえて来ます。子供達は伝承遊びで♪せっせっせーのヨイヨイヨイ、夏も近づく八十八夜、トントン♪と二人組になって歌っていますが、先生達はきちんと“唱歌”としても教えます。しかし、歌詞を教える時、茶摘みをした事もないし見た事もない──あかねだすき?すげのかさ?──。昔から歌い継がれてきた歌を子供達に伝え、またずっと受け継いでもらいたいし、意味も分からず歌うのではなく、その情景を思い浮かべながら歌ってほしい──そんな想いもあって、私は恥も外聞も捨て茶摘み娘(?)に扮し、園長先生と一緒に子供達に茶摘みの話をしました。家に帰って、この茶摘み娘(?)の話をした子もいたのではないでしょうか?正体は私です(笑)。それで全てが理解できなくても、イメージしながら歌えたりこの時季の歌として茶摘みの事を結び付けて知ってくれたらいいなと思っています。

先月『こいのぼり』の歌を歌っていました。♪やねよりたかいこいのぼり♪ という歌は皆さんご存知でしょう。そんな中、年長組のある女の子が ♪いらかのなみとくものなみ~♪ と歌っていました。

これも『こいのぼり』という歌です。少し難しい歌詞ですが、“いらかの波”というのは家の屋根瓦を波に見立て、波のように見える空の雲との間に泳ぐこいのぼりがいかにも勇ましく、このような子供になれという願いが込められた歌のようです。最近では、“屋根より高いこいのぼり”もあまり見なくなりました。波打つように見える家の瓦屋根も様変わりしているようです。今や昔の歌をイメージしにくい世の中になっています。

歌だけではありません。昔話『ももたろう』のフレーズ「むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ“しばかり”に、おばあさんは川へ洗濯に行きました。」ここで出てくる“しばかり”は“芝刈り”ではなく“柴刈り”です。今の子供達に聞くと、きっと庭の芝生の手入れのイメージでしょうか。“川へ洗濯”?洗濯を川でするお母さんを見た事のある子はいないでしょう。このフレーズだけを耳にして、果たして子供達はどんな情景を思い浮かべているのでしょうか?

イメージしにくいからとか、もう古くて今の時代に合わないからと、歌わなくなったり読まなくなったり、話して聞かせてやらなくなったり…でいいのでしょうか?昔の歌や物語には、その時季折々の美しい言葉、感情、戒めや教えがあります。その歌を歌うだけで…その昔話を読むだけで、子供達はその情景を思い浮かべ自分なりにそこに想いをはせます。新しい歌や流行り歌は、いろいろなメディアを通して目や耳にする事は多いのですが、童謡やわらべ歌は身近なものとして感じにくくなってきています。しかし、イメージできれば、子供達の中にある様々な感情を呼び起こし、そこに身を置きその世界を楽しむ事ができるのです。昔、おばあちゃんが…お母さんがそうしてくれたように、私達大人はこれからもずっと引き継ぐ担い手となり、日本の宝を子供達の心に残してやりたいと思うのです。

勿論、現代の歌にも、これから残し子供達に伝えたい歌が沢山あります。童謡だけでなく、アニメソングにもJ-POP(最近ではこう呼ぶらしい)にも…。新しい歌!これが私にとってはなかなか入りにくい……(泣)。ついて行かなくては!!