“難しい事”が”楽しい事”に…(平成30年度12月)

紅葉した山々を見渡し、秋に浸りながらも、クリスマスソングを耳にし口ずさみ、そうかと思えばお正月のお節や年賀状の注文書に数を記入している……なんて気ぜわしいのでしょう。一つひとつの事をじっくりと楽しみ味わいながら過ごしたいのに、世の中のムードについつい流されてしまいます。まぁ、この気ぜわしさも、この時期らしさを味わっているという事なのでしょう。そんな中でも、幼稚園の子供達は、相変わらず落ち葉に埋もれて秋を満喫しています。大人があれもこれも…と感じる忙しさとは違い、一つの経験の中で、いろいろな事を考えながら、一生懸命に心と身体を忙しそうに動かし遊び込みます。

そして、今、子供達には頑張っている事があります。ご存知の通り、来月行われる“音楽発表会”の練習です。現在は、本番と同じようにステージ上で年少組はクラス毎に踊りを年中年長組は合奏をそして、それぞれに学年では歌の練習をしています。少し前までは、ホールのフロアーに楽器を並べての合奏練習でした。そしてさらにその前は、4つの保育室に打楽器、木琴、鉄琴、アコーデオンそれぞれパート別に置いて、パート練習をしていました。練習を重ねて行きながら、今週ついにステージで本番さながらの練習に入りました。子供達は、このステージに立つ事をずっと楽しみにしていました。「あのステージに立つために……」と自分がそこへ立っている姿を想像して頑張っていました。先生達の話術により、このステージは憧れの『神聖なる場所』となっていたのでした。

 実際に楽器に触れたり、踊ったりしたのは運動会が終わった頃からですが、具体的に踊りの動きを考えたり楽譜を作ったり、幼稚園としてどんな音楽発表会にして行こうかという構想は、夏ぐらいまでに先生達の頭の中では練られていました。その時点では、まだ子供達がどんなふうに頑張るかが見えていなくて不安材料もたくさんありましたが、確かにわかっている事はこの経験で子供達が大きく成長できるという事だけでした。その後この不安は日に日に自信につながって行きました。子供達の中にも最初は、自分が思っていた以上に難しくて今までした事がない事に戸惑ったり気持ちが向かなかったりしていた子もいました。そんな時、先生は何度も何度も励ましたり、工夫したりしてその子その子が頑張れるように考えて行きます。この頃が先生も子供達も正念場です。ここで、「ぼく、もうやめる」「ぼくにはできない」と思うか「もっと上手になりたい!」「もうちょっと頑張ってみる」と思うかで、成長への扉が開くか開かないかが変わって来ます。どのクラスを覗いてみても、少しずつ変わって行く発表会に向かう子供達の生き生きと頑張っている様子で先生達のその思惑が手に取るようにわかりました。「出来たじゃない!凄い!」「よく頑張ったね!」「かっこいい!」「もう少ししたら、もっと上手になるよ」「どんどん素敵になるね」と褒めたり励ましたりして、子供達のやる気と持てる力を引き出していました。

 この正念場を越えれば、今度は自分の事だけではなく、友達の頑張りに目を向ける余裕が出てきます。パートが決まり、その楽器を一生懸命に練習する友達を傍で見ながら、「○○ちゃん上手だね」「○○君頑張ってるね」とお互いに認め合うようになります。同じ楽器を任されている子供達は一緒に「もっとこんなふうにしたらいいんじゃない?」とか、時には手を抜く様子が見られたらその友達に「○○君、もっとまじめにやってよ!」と注意し合うシーンもみられました。上手くできた時にはハイタッチで喜び合ったり、他のクラスの演奏を聴きながら、自分と同じ楽器をしている友達をジーっと見て、自分とどこがどう違うのか、もっと自分も頑張ろうと刺激を受けたりして子供なりに研究をします。こうなって来ると、“難しい事”がもはや“楽しい事”に変わって来ているのです。“難しい”と思うのはこの先がどうなるのか……“できる自分”の姿が想像できなくて不安だからです。何となくできそうな自分が見えて来たら“楽しさ”に変わります。いつか必ずできるようになる!と思えるようになったり、そう感じさせてもらえる言葉をもらったりする事で、“できる自分”を想像し自分を信じて頑張れるようになります。自信を持つ事で“難しい事”がそのままずっと“難しく辛い事”にならず“希望”となり、その過程を“楽しい”と感じるようになるのです。

 先月の『葉子せんせいの部屋』でも書きましたが。“難しい事にチャレンジする強い心と身体”──自分の力より少し高いハードルを越えようとする時、そこに“楽しさ”が見い出せた時にこそ成長があると思うのです。音楽発表会では、楽器や踊りや歌の技術を得る事も大切な学びですが、私達が育てたいのはそこ一本ではなく、この間に芽生える個々の精神力や表現力、自信、そしてクラスの友達や先生との間に生まれる関係の中で協同性や感性豊かな心です。“難しい事”にチャレンジしようとクラスのみんなで向かう過程があって本番を迎えます。今の子供達は不安が自信に変わり、一回りも二回りも強く頼もしくなっています。お家の人達に観ていただける本番は『一発勝負』ですが、実は、本当の意味の勝負で既に子供達は勝利を得ているのです。音楽発表会当日は上手下手ではなく、子供達と先生との間に見えない糸で結ばれた信頼関係を感じ、その事を感じ取っていただけたら嬉しいです。そして、これまでの子供達の頑張りに“勝利の拍手”をたくさん送ってあげてください。