今こそ育てたい表現力(2021年度1月)2022年1月

明けましておめでとうございます。年末は寒波に襲われましたが、年明けには落ち着き穏やかな新年を迎えられた事と思います。一昨年から昨年……そして今年も新型コロナウイルス、また新たな変異株「オミクロン株」とどう向き合うかを問われながらの年明けとなりました。緊張感はこれからも続きそうですが、『withコロナ』を前向きに捉え、この一年も明るい気持ちで過ごしたいと思います。

さて、昨年、ある新聞に「マスクを外せない若者 もはや顔パンツ」という記事が掲載されていました。そのタイトルを見ただけでどんな事が書かれているかは、だいたい見当がつきました。コロナ禍でマスク生活が続き、自分も人もそれに慣れて……いや「慣れた」を超えて今や、マスクを外した顔を見られる事に抵抗を抱く人が増えて来た。──それは、若者だけではなく、多くの年齢層の人が同じ気持ちを抱いているというのです。思えば、こんなに長くマスク生活になる前は、インフルエンザが流行する冬にマスクをする事にでさえ鬱陶しく思うほどでした。それが、いつの間にか、マスクで顔半分が隠れている事により感染予防としてだけではなく、自分のコンプレックスや表情をぼやかし、対人関係を楽にする事ができる格好のアイテムになってしまったようです。これでは、真っ向からコミュニケーションをとろうとする能力や気持ちに弊害をおよぼしてしまうのではないかと少し心配です。そう言う私もマスクでほんの…ほんの少しばかり年をごまかせているのかも??(……でもないか 笑)

それはそれとして、新型コロナウイルス感染症が一時落ち着いた国では、早々とマスクを外して生活をする人々の映像が流れていましたが、ワクチン接種の効果だけに頼るのは恐ろしい気がします。日本ではまだまだ感染予防のためにほとんどの人がマスク生活をしています。実際に、今の状況ではこれまでの感染予防対策は、変わらず続けていかなければならないでしょう。マスクをしていると、表情をぼやかす事ができて、相手から本音を探られずに済む事がメリットのように捉えられている反面、コミュニケーションが必要とされる場面では、実に気持ちが伝えにくく伝わりにくい事はデメリットである事は確かです。顔半分が隠れているのですから、相手の表情は見えにくく“目は口ほどにものを言う”とは言え、目だけではなかなか気持ちが読めません。誰もがマスクをしているのですから、自分の気持ちも伝わりにくくコミュニケーションが実に取りづらい環境の中に今私達はいるのです。

幼い子供達のマスク着用については、着用する事で発生するリスクを考え強要せず、着用した場合は、大人が細やかに着脱の管理をする事が必要だとされています。しかし、

自分で管理できるようになる小学校以上になると、ほとんどの子供達が着用しています。相手の表情や感情が読みづらいこの環境の中で成長する今の子供達に、「こんな世の中だから仕方ないね」と済ます事は、これから社会に出て世の中を担う大人になるために必要な事を欠落させてしまうのではないかと思うのです。マスクが離せない今だからこそ、子供達には、口元や顔の表情だけに頼らない「表現力」の育ちが必要になってくると思っています。

楽しい時にはつい鼻歌を歌ったり、大きな声で笑ったり、スキップしたり、踊ったり……嬉しい時にはヤッター!と飛び跳ねたり、走り回ったり、手をたたいて喜んだり……悲しい時には涙を流したり、肩をガックリ落としたり……身体のどの部分を使ってでも自分の気持ちを表す事が出来ます。また、そうしている人を見てその人の気持ちを察する事が出来ます。ありがたい能力です。それに加え、私達人間は、道具を使う生き物として、様々な方法で表現する事ができます。言葉、文章、絵、音楽、製作等を通して、自分の気持ちを伝え合いわかり合うのです。話す、聞く、書く、読む、見る、描く、奏でる、作る──そうしてコミュニケーションをとりながら、豊かな気持ちで人として人の中で生きて行く事ができます。

子供達は、たくさんの物を見たり聞いたり触れたりしながら、いろいろな感情を抱きます。「わぁ、きれい」「楽しい」「嬉しい」「怖い」「悲しい」etc. その心の動きを素直に表現する事で、周りの友達や先生とその感動を共有します。そして充実感を得ながら感性を豊かにし、潤った人間関係を築くのです。抱いた感情を素直に表現できる力を養いたいと思います。気持ちを伝え合う方法はいくらでもある事や、その大切さや喜びの大きさを知って欲しいと思います。「きょう、○○ちゃんに“あそぼうね”ってお手紙を書いて来たんだぁ~」「みて!みて!先生の顔描いたよ」「先生!音楽かけて!踊りたい!」──子供達から、自分の気持ちを表現しようとする声があちらこちらで聞かれます。たくさんの友達や先生達と関わり合い、様々な経験をする中で表現力が育っているのです。子供達は、2学期から音楽を通して気持ちを表現する楽しさを探っています。音楽に合わせて踊ったり、楽器を使って演奏したりして、その曲から抱くイメージを自分達なりに伝えようとチャレンジしています。日常生活での感動と様々な表現経験をリンクさせながら、自分の感情を相手に伝える楽しさを味わっています。これも一つの表現力の育ちです。マスク生活の今だからこそ、育んでいかなければならない力ではないかと思います。これは、子供達だけでなく、私達大人もその力を磨き、コミュニケーション力を高めていくべきかもしれません。コミュニケーションにわずらわしさやマスクによって表情を隠す事に安心感を抱き始めているとしたら、そんな時こそ、子供達と一緒に色々なものを見たり聞いたり経験したりしながら、そこに生まれる感情を素直に伝え合う生活を大切にしてみたらいいのかもしれません。

「マスク生活の中で育っている子供達だから仕方ない」と言わせない!───。子供達の生き生きとした表現力の育ちを願いながら、締めくくりの3学期を過ごして行きたいと思います。  今年一年もどうぞよろしくお願いいたします。