サンタクロースの部屋

児童文学者の松岡享子(きょうこ)氏(絵本「おふろだいすき」「とこちゃんどこ」「かえるがみえる」等の作者)が、「サンタクロースの部屋」という本の中で次のようなことを書いています。

《アメリカのある文学評論誌の中に「子どもは遅かれ早かれ、サンタクロースがだれかを知る。そのこと自体は、他愛いの無いこととして片付けられてしまうだろう。しかし、幼い日に、心からサンタクロースの存在を信じることは、その人の中に、信じるという能力を養う。私たちは、サンタクロースその人の重要さのためではなく、サンタクロースが子どもの心に働きかけて生み出すこの能力ゆえに、サンタクロースを大事にしなければならない」というのがあった。この能力はキャパシティーという言葉が使われていた。この言葉は収容能力を意味する。心の中にひとたびサンタクロースを住まわせた子は、心の中に、サンタクロースを収容する空間を作り上げている。サンタクロースその人は、いつかその子の心の外へ出ていってしまうだろう。だが、サンタクロースが占めていた空間は、その子の心に残る。この空間があるかぎり、人は成長にしたがって、サンタクロースに代わる新しい住人を、ここに迎え入れることができる。この空間、つまり目に見えないものを信じるという心の働きが、人間の精神生活のあらゆる面で、どんなに重要かはいうまでもない。のちに、一番崇高なものを宿すかも知れぬ心の場所が、実は幼い日にサンタクロースを住まわせることによって作られるのだ。別にサンタクロースには限らない。魔法使いでも、妖精でも、鬼でも仙人でも、ものいう動物でも、空飛ぶくつでも、打ちでの小槌でも、岩戸をあけるおまじないでもよい。幼い心に、これらふしぎの住める空間をたっぷりととってあげたい》というものでした。


私がこの本を読んだのは我が子が幼稚園の頃ですが、心の中にずっと焼き付いています。この言葉は、絵本の大切さと子育ての本質をついているからです。素敵な絵本を読んでもらったり、お話をいっぱい聞いたりして育った子は、崇高なものを宿すかも知れない「心の箱」を大きく育んでいるのです。


ついでに言わせてもらえれば、幼児期を、どんな環境の、どこの幼稚園で過ごすかが、とても大切なことなのです。大人になったら幼稚園のことはほとんど忘れているかも知れません。でも、幼児期にはぐくまれた「心の箱」が、どんな箱かが大切なのです。私達は、その素敵な、「心の箱」を大きく育てるため、子供達の個性と自由を大切にしながら、自主性と主体性を尊重し、豊な感性をはぐくむ教育を目指して頑張っているのです。幼稚園は心のふるさとなのです。