合奏(平成9年度)12月

私ごとですが、11月は教育学会や論文の提出等でなかなか幼稚園に帰ってこれず、先生たちと電話やファックスで連絡は取り合ってはいたものの、子供たちの顔が見れない寂しさとともに、あの子はどうしているだろうか、この子は元気で来ているだろうかと気になりながら過ごしていました。


やっと、27日の夜遅く帰ることができ、28日の午前中に、子供たち全クラスの合奏をはじめて見たのですが、心配は一度に吹き飛んでしまいました。あんなに甘えていた子も、何かあるとすぐに泣いていた子も、すました顔をして堂々と合奏しているではありませんか。私の顔をチラッと見て、ニコッとしながら、「だいじょうぶだよ」と合図を送ってくれます。どの子も、みんな、そんな目の合図をしてくれるのです。今までにない、物静かで落ち着いた雰囲気で、堂々と演奏しています。演奏しながら、どの子も、私の方に、チラッとサインを送るのです。みんなニコニコしています。演奏が終って、「どうだった?」と子供が私に尋ねるのです。やっと判りました。そうなんです。今日は練習ではなかったのです。園長先生と典子先生に聞かせてくれていたのです。


「明日は園長先生と典子先生が大学から帰ってきてだから、演奏して聞かせてあげようね。みんなすごく上手だから、きっとビックリしてたよ」と、先生たちが子供に話してくれていたのです。胸がジーンとしてきます。
最初にうめ組の演奏を見ました。もも組と間違うぐらい大きく感じるのです。ついこの前、入園してきたばかりなのにと思いながらも、その堂々とした姿に、友達関係意識の深まりとともに、幼稚園での生活に自信を持ってきていることを強く感じます。
続いて、もも組の演奏は、1年の成長の差をしっかりと感じさせてくれ、その落ち着いた姿は、「自分たちは、もう、何でもできるよ」と言っているかのようです。なんと、ちゃんと曲になっているではないですか。何よりも、とても楽しそうに、ニコニコして演奏している姿をうれしく思いました。
最後に、さくら組の演奏です。いつもは園庭で元気いっぱいに遊んでいる子からは想像できないくらい物静かで、自分たちの楽器を準備しながら、先生の指揮を待ちます。先生が何一つ指示しないのに、自分の役割をちゃんと理解していて、黙々と楽器を運び、支度をしています。だれ一人として騒いでいないのです。子供が本気になっているときや集中しているときは、騒いだりふざけたりしないのです。そして、曲の演奏に入りましたが、曲の中に、子供たちの心を感じ、涙が浮かぶほど感動しました。


もう一つ感動したことがあります。
それは、先生たちの成長です。子供たちの成長とともに、先生たちも大きく成長してくれているのです。新しい先生も、ベテランの先生も子供たちの関わりの中から、子供の本質を学び、望ましい保育のあり方を求め、時には議論しながら、時には本を読みながら、あるいは、悩みながらと、一歩一歩と成長してくれているのです。離れたところから見ると余計にはっきりと感じるのです。本当に子供たち一人ひとりの特性や成長を大切にしてくれている姿が伝わってきます。


合奏は、自分だけではできません。自分勝手に演奏をすると、ガチャガチャになります。その分、おのずと合わせることに集中します。それは、相手に対する思いやりと協力の姿となって現れてきます。それは同時に、自分の担当している楽器が、どれひとつとっても、重要な役割をしていることに気付き、自分の役割への責任感も生じてきます。


そして、段々と曲をきれいに演奏できるようになるにつれて、その喜びも増し、もっといい音を出そうと心がけ、相手の音を聞きながら、自分の音を探していきます。そうして、段々と曲に感情が入っていき、音楽の楽しさやすばらしさを感じるようになってくれるのです。子供たちの演奏を聴いていて、何よりも楽しそうに、自信を持って演奏してくれている姿を一番うれしく思いました。それには、先生たちが、子供に負担をかけたり強制しない方法で、本当に自由な雰囲気の中で取り組んでくれていることも見逃せません。自由な雰囲気の中にこそ、子供の興味や意欲を高めることができるからです。


そして、子供たちがすごく仲良しで、友達思いであることをうれしく思います。もうすぐ、音楽発表会です。このようなことも、頭のすみに入れていただいて、聴いて頂ければ、感動も違ってくるのではないかと思います。