応答的親子関係(平成10年度)11月

子供が、お父さんやお母さんに本を読んで欲しいと、絵本を持ってくることが度々あると思います。そうすると、たいていの場合、親は、「よしよし」、「いいよ」と言って読んでやります。子供たちは、お父さんやお母さんの膝に抱かれたり、腕枕をしてもらって読んでもらいます。そうすると、子供たちは温かい親の愛情を感じながら絵本の中に入っていきます。親も子供も幸せな気分です。


ところが、忙しくしていたり、何か用事があったりすると、ついつい後回しにしがちです。「今、忙しいから後でね」と、言うことになります。本当は、せっかく「絵本を読んで欲しい」と、言っているのですから、少々の忙しさなら、それを置いておく分でも、是非とも、読んでやりたいものです。それに応えてやることが絵本好きな子供になる要因の一つなのです。「あとで!」と言って、仕事が落ち着いて読んでやろうと思ったら、その時には、子供はすでに寝てしまっているということも度々あります。あるいは、他の遊びに興味が移ってしまい、絵本から気分がそれてしまうことにもなります。子供の方から読んで欲しいと思っている、せっかくのよい機会を失うことになります。そのようなことが度々あると、絵本を読んで欲しいと思うことさえ段々となくなっていきます。親の方が少々忙しくても、あるいは疲れていても、「絵本を読んで欲しい」と、絵本を持ってきたときには、出来る限り読んでやって欲しいと思います。


同じように、子供が何かが出来るようになったとき、子供は、「見て!、見て!」と言います。子供が、「見て!見て!」と言うときは、たいていの場合、今まで出来なかったことが出来るようになり、とても嬉しいときなのです。「跳べるようになった」、「渡れるようになった」、「乗れるようになった」、「登れるようになった」等々、その子の成長と共に、いろいろなことが出来るようになる度に、「見て、見て」と言います。その時には必ず見てやって欲しいのです。子供は、その、出来るようになったことを、お父さんやお母さんに見てもらいたいのです。そして、「わぁ、すごい、すごい」とか、「がんばったね」とか、その状況に合った言葉で応答してやって欲しいのです。それが、自分を認めてもらうことになり、効力感となって、次の意欲につながるのです。それを、子供が、「見て!見て!」と言っているのに、親の方が、「今、忙しいの!」、「あとで!」と言ったりすると、せっかく、「見て欲しい」、「喜んで欲しい」と思っているのに、それがかなえてもらえないと、やはり、段々と意欲を失っていきます。ここはやはり、仕事の手を休めて、見てやり認めてやる必要があります。そのことが、将来、いろいろなことにチャレンジする能力の基盤となるからです。


ところが、余りにも他の子と比較したり比べるために、「すごい、すごい」と言うような言葉が、素直に出てこない人があります。例えば、近所に、我が子と同じ年齢の子が、すでに縄跳びが何回も跳べる子がいるとします。我が子も、「自分もそのように跳べるようになりたい」と、一生懸命挑戦しています。しかし、何時も一回で縄が足に引っかかってしまいます。そして、何日か経って、やっと一回ほど跳べるようになりました。子供は嬉しくて、「見て!見て!、跳べるようになったよ」と、言ってきます。お母さんは、近所の子と同じように跳べるようになったのだと思い、期待して見みます。ところが、わずか一回しか跳べません。その時に、「たった一回だけなの!」と、がっかりして言うと、子どもはとても悲しい気持になります。子供は頑張って頑張って、やっと一回跳べたのです。「わぁ、すごい!跳べたね!」と、喜んでやることで、子供の喜びは倍増し、次の意欲や、やる気が育つのです。子供の成長は、親の喜びであると共に、子供本人にとっても大きな喜びなのです。


子どもは、自分にはちょっとだけ困難なもの、少しだけ程度の高いものに挑戦します。それを克服することで、達成感や効力感を感じ、喜びとなり、次の挑戦を求めます。それが意欲なのです。それは、人との比較ではなく、周りの人や環境からの刺激で、自分自身の課題を見つけ、挑戦しているのです。それが子供の遊びであり生活なのです。
子供の言葉や行為を通して気持ちを推察し、子供との応答関係をより多く持つことが、子供との共感関係を育み、親子の信頼関係を築き、将来の生きる力となっていくのです。このように、子供の思いや発言、行為に応えてやる応答的親子関係の生活を大切にしていきたいものです。そうしていくと、我が子の良さがしっかりと見えてきます。子供が素敵に見えてきます。