最後の絵本講座

人間の赤ちゃんは人間として生まれてきます。生まれたときは生物としての人間です。それを、オオカミが育てたらオオカミ人間なのです。真の人間として育つのは人間が育てるからです。親は、わが子に対していろいろな願いを持ちます。やさしい子に育って欲しい。思いやりのある子に育って欲しい。心豊かに育って欲しい。心身ともに健康であって欲しい。人に迷惑をかけない子になって欲しい、等々、枚挙にいとまがありません。


やさしい子に育って欲しいと、「やさしくなれ、やさしくなれ」といって育ててもやさしい子には育ちません。親やまわりの人たちから、やさしさをいっぱい受けることによって、その子のやさしい気持ちが育つのです。愛されて育つから、愛を感じたり他人を思いやったりする心が育つのです。心豊かに育って欲しいと願っても、心豊かになる生活体験がないと、心豊かにはなりません。「やさしい心」や、「美しいものにあこがれる心」は、親やまわりの人たちが推し届けることによってこそ、力となり認識となって定着するのです。それだけに、親が心豊かでなくてはなりません。親自身が利己的であったり、わが子だけはという子育てでは、そのまま利己的で自己中心の子どもにと育ちます。親自身が他人への思いやりや、やさしさを持って接していると人のことを悪く言ったり、いじめる子にはなりません。


幼児期は直接体験を通していろいろなことを学び自らを育んでいきます。心とからだ全体で受け止めていくのです。それは、親や家族、友達や教師などの人との関わりであったり、地域社会や自然、その子をとりまく文化も重大な役割をします。
そして、もう一つ大きな役割をしてくれるのが、絵本なのです。絵本は直接体験ではなく間接的体験というべきものかも知れません。しかし、親から絵本を読んでもらっている行為そのものは直接体験で、親の愛を一身に受け止めながら聴き入っています。その親子関係が子供の心を育んでいるのです。その上、絵本からいろいろなことを感じとってくれます。自分の知らない世界も、お父さんやお母さんが読んでくれる「ことば」と、自分のわずかばかりの経験や知識を土台に、「絵」を頼りに、想像力をいっぱい働かせて聴きいっています。その時の心の働きが、心豊かに育つ大きな要因となっているのです。
真実には、幾通りもの真実があります。文学や絵本は、たくさんの「生き方」や「人間の生きざま」を物語ってくれます。人生は〇×ですむほど単純ではありません。生きていく力を与えてくれるのです。

               以上

現、伊達正浩理事長による
「えほんこうざ」より