だんご3兄弟(平成11年度)5月

入園説明会のときに少しだけ触れましたが、今年の1月にNHK教育テレビ「おかあさんといっしょ」の番組で放送されてから、またたく間に子供たちの心を捉え、ご存じのように、「だんご3兄弟」の歌が大ヒットしています。そのため、いままで4個や5個だった団子も3個にして売り出しています。同時に、さまざまな経済的波及効果を生んでいるようです。そして、3人の子供を産みたいという人も増えているといいます。それが本当なら、少子化の時代、思わぬ波及効果となってきます。


近年、人の価値観が多様化して、結婚や家庭生活に対しても、いろいろな考えを持つようになり、伝統的な家族制度から核家族へ、そして逆に大家族を望む人も増えてきたり、夫婦別姓問題が新たな課題として論議されたりしています。そんな中、少子化も社会問題にまで発展しつつありますが、その対策として、エンゼルプランなど国のさまざまな施策も、一向にその効果が見えてきません。国の施策が国民の価値観の多様化と変化についていけないのでしょう。あまり期待はできませんが、もしも、「だんご3兄弟」の歌で出生率が増えたとしたら、国の方は笑うにも笑えないということになりそうです。


これらのことは別として、今回は兄弟姉妹のことについて触れてみます。子供は一人だけでいいという方もいらっしゃいますが、逆に、少なくとも2人あるいは3人欲しいと思われている方もだいぶ多くなってきているように感じています。実際、幼稚園でも3人兄弟というのが増えてきているように実感しています。私自身、3人兄妹(きょうだい)で育ちましたが、わが子は娘2人だけです。気持ちとしては、貧乏してもいいから何人でも欲しいと思っていましたが、2人しか恵まれませんでした。それぞれの夫婦にはそれぞれの事情がありますから、「何人がいいから、もう一人、生んだほうがいいですよ」などとはいえません。


そこで、「だんご3兄弟」の大ヒットにあやかって、3人兄弟(姉妹)のことについて話してみます。3人兄弟の一番の特徴は、その関係が一対一の関係では終わらないことにあります。2人兄弟なら相対した関係ですから、仲良しするときもけんかするときも一対一であり関係は単調です。ところが、3人になると、3人仲良しのときもあれば、3人ともけんかしてばらばらになることもあります。また、2人だけ仲良くして、1人だけけんかのため遊びの仲間から追い出されることもあります。人間関係が複雑になるのが3人からということになります。


昔から、「兄弟はけんかをしながら育つ」といいますが、毎日一緒に生活していますから、さまざまな衝突があるのも当然のことです。男の兄弟なら、「取っ組み合いのけんかもしょっちゅうです」ということにもなります。なぐり合いやひっかいたりつねったりもします。そしていつのまにか仲良しになって遊んでいます。このような日常での兄弟同士の関わりの中で、自己抑制ができるようになっていくのです。なぐったりひっかいたりしたために相手が泣きます。泣かしてしまったことから、悪いことをしてしまったと心の痛みとなります。逆に、自分もやり返されて、体に痛みを感じます。そうすると、なぐると相手も痛いということが身にしみてわかってきますから、なぐったりつめったりするときも、力をコントロールするようになります。


3人兄弟の場合、仲裁する子もいれば、泣かされても、もう1人の兄弟と遊ぶこともできて、その子は救われます。なぐった方は遊んでもらえなくなって寂しい思いをすることになります。また、上の子は下の子をかわいがったり、下の子は上の子のすることに憧れの気持ちを抱いたりします。中の子は、両方の立場に挟まれてもっと葛藤します。このように、兄弟が多いほど、より複雑な関わり合いを持つことになるのです。


これらの経験を通して、がまんすることの心の葛藤や相手を思いやる気持ちがはぐくまれることで、社会性を身につけていきます。ちょうど、川の水の流れにさらされている石がだんだんと角が削られて丸くなってくるのと同じように、心のとげ(自己中心性)が削られていくのです。昔から、「子どものけんかに親は口を出すな」といわれていますが、子ども同士で問題解決能力をはぐくんでいくことを知っていたのですね.一人っ子でも、友達としっかり遊ぶことで、経験します。