みんな素敵(平成12年度)平成13年1月

つい先日のことです。2学期から、1便増えた別コースの園バスを、私が運転していますが、その日は、出版社に提出する急ぎの原稿があって、子供たちをバスで送った帰りに郵便局に立ち寄ろうと、バスの出発時間ぎりぎりまで、コピーをして封筒に入れ、その原稿を送る準備をしていました。その間、そのバスに乗る6人の園児が、事務室でイスに座って待ってくれていました。年長組の男の子が、「園長先生は仕事が忙しいんだ」といいながら、私のしていることをみんなで眺めていました。「さ、出来た。待たせてごめんね。バスに乗るよ」と言うやいなや、年少の女の子が、私のくつをきれいにそろえて、さっと私の足下に置いてくれたのです。「Yちゃんありがとう。でもすごい!園長先生の靴をそろえてくれたんだもの。ありがとうね」と、私のうれしい気持ちを伝えました。そばにいた美智子先生も、「見~ちゃった。Yちゃんのすごく良いとこ見~ちゃった。」とほめてくれています。バスを運転しながら、「きっと、お家でお母さんがいつもそうされているのだろう」と、心地よい気持ちで、お家での様子を想像していました。


1月の講演会の時に、講師の永見勝徳先生が「心を育む」という演題で、「親が育たなければ子供も育たない」と、くつをそろえる例も出して、「親がしなければ子供はしない。親がするとおりに子供はする」と話されていましたが、まさにそのとおりの良い光景でした。やはり、挨拶もそのとおりです。

「おはようございます」、「こんにちは」、「失礼します」、「さようなら」、あるいは、「ありがとう」、「ごめんなさい」とちゃんと言えるのも、ふだんの生活の中で、周りの大人がいつも言っているから出来るのです。お客さんが来られて、慌てて、「ちゃんと挨拶をしなさい」と言っても、うまくはいきません。片付けや掃除も同じことです。片づけなさいと口うるさく言ってもなかなか言うことをきいてくれません。親の片づけている姿や子供と一緒に片づけることで学ぶのです。


よく見る光景に、ポイ捨てが有ります。皆さんも見られた経験が度々あると思いますが、車の中から、たばこや空き缶を捨てる行為です。車の中に灰皿があるのに、自分の車の灰皿を汚さないために、わざわざ窓を開けて道路に捨てるのです。最近の若者だけかと思っていたら、結構、年輩のおばさんまでが、空き缶を投げ捨てている光景を見たことがあります。もっと信じられないのが、自分の子供が車に同乗しているのに、子供の見ている目の前で、空き缶を捨てる親がいるのです。その子がどんな人間に育っていくかは、容易に想像できます。Yちゃんの心地よい話から、説教ぽい話になってしまいました。とにかく、子供は親(大人)の姿からいろいろなことを学ぶのです。


このころになると、急に温かくなり、木の芽の息吹を感じます。子供たちも、ぽかぽか陽気の中で、園庭で遊んでいる姿も一段と活発になってきています。その子供たちの遊んでいる姿を見ると、それぞれが友だちと深く関わりながら、いろいろなところでいろいろな遊びをしています。その楽しそうな様子を見ていて、とてもほほえましく感じます。本当に仲良しなのです。この子たちもみんな、それぞれの家庭で愛情をいっぱいに受けながら育っているのだなと感じずにはおられません。みんな優しいのです。


ホールでは、卒園式の練習が始まりました。そこに足を運ぶのは気が重くなります。この子たちはもうすぐ卒園をしていくのだと、否応なしに実感するからです。練習の様子を子供たちの後ろから見ていると、みんなそれぞれに成長して、ずいぶんとしっかりしてきたなと感じます。練習が終わって、お部屋に帰って行く子供たちが、「園長先生、またサッカーをしよう」と声をかけてくれます。なんだか、寂しそうな園長の気持ちを元気づけてやろうと、誘ってくれているような気がして、子供たちの心の暖かさに胸が詰まります。この子たちが生まれて、わずか6年しか経っていないのに、こんなにも心豊かに育ってくれていることをうれしく思います。

ホールからの帰り、うめ組さんの部屋を除くと、2クラス一緒になって、お誕生会のお菓子を食べています。部屋に入ると、「手品して!」とすぐさま声をかけてきます。「そうだね。長い間してなかったから、じゃあ、今から手品をするからしっかり見ていてよ」と数種類の手品を始めました。それを見ている子供たちは、本当に不思議そうに、驚いている様子がありありとしていました。その時の目がランランと輝いているのです。特に、最近転入してきた女の子は、私の手品を初めて見るのです。目を輝かせたまま、身体が固まっています。

子供たちの目の輝きを見て、思い出したことがあります。数年前、福島県から10人ぐらいの幼稚園の園長先生たちが見学に来られたことがあります。見学の後の、懇談の中で、「ここの幼稚園の子はみんな目が輝いている」と、開口一番に言われたことがあります。どこの子も目を輝かせているとばかり思っていた私には驚きの言葉でしたが、子供自ら興味を持ってすることには目を輝かせるのです