ほめる(平成12年度)8月

7月の園だよりでは、「叱る」ということで書きましたので、今回は「ほめる」ということに触れてみたいと思います。


大人になっても、ほめられるということは嬉しいものです。
ご主人から、「今日はきれいだね」とか、「愛してるよ」と言われれば、鼻歌まで出て、その日は一日中楽しくすごせるでしょう。あるいはまた、夕飯の時、「美味しい!」と言って食べてくれれば、料理をすることがとても楽しくなります。ところが、日本の旦那はそういう表現を苦手とします。今の若いご主人はだいぶ変わってきたようですが、欧米文化の中で育った人たちに比べれば、比較にならないほどへたなのです。


それはともかくとして、「ほめられる」ということは、人間の心情をとても心地よいものにしてくれます。その心地よさは、意欲や、やる気を起こさせてくれるのです。大人でもそうなのですから、子供にはもっと大きな効果を生み出します。

子供は母親や父親を中心に周りの大人に依存して生きています。衣食住はもちろんのことですが、子供が遊んでいるときでも、周りに依存できる大人がいてくれるから、安心して遊べるのです。何か困ったときや怖いことが起こりそうなとき、すぐに助けてくれる人がいてくれるという安心感です。子供は、周りの大人に絶対の信頼感を抱いているのです。

それだけではなく、まだまだ、自分のしていることに確信が持てませんから、新しいことには、かなりの不安を抱きます。そういうとき、周りの大人が、「いいよ」とか、「だいじょうぶよ」と言ってくれることで、安心して行為や行動を起こします。子供が服を汚してどろんこなって遊んでいるようなとき、「もしかして、叱られるのでは」と思いながらしていることでも、周りで見ている人が、うなずいてくれたりニコニコして見ていると、安心して遊べるのです。

このようなあそびは、周りから指示されてするあそびではありませんから、ほとんどが自分の好奇心や興味からはじめますので、自発的な行為なのです。自発的な行為を認めてもらえることの積み重ねが、先での自主的な子供に育つ基となるのです。


ところが、この自発的行為は、「叱られる」ことと、「ほめられる」ことの両義性を備えています。先に話した「どろんこあそび」のように、服を汚したり家の周りを汚すと、大人から、「叱られる」かもしれない一面と、工夫をして遊んでいることや、生き生きとしている姿に感心して、「ほめられる」という一面もふくんでいます。

子供が家事の手伝いをすると、「ほめられる」ことでもあり、逆に結果として、散らかしたり壊したりして、「叱られる」ことにもなり得るのです。このような両義性を持つ行為は、「ほめられる」か、「叱られる」かになるわけですが、そのどちらになるかは、養育者や周りの大人の養育態度や価値観、あるいはその時の、大人の精神状態によっても違ってきます。


そうなると、ほめることは叱ることよりも難しいのかもしれません。食事が終って、子供が、食器を片付ける手伝いをしようと運んでいる途中で、おぼんごと落として壊してしまったようなとき、「手伝ってくれてありがとう。お母さんとっても助かっているよ。○○ちゃんのそういう優しいところが大好きよ。今日は落ちてしまったけど、また手伝ってね」と言うのと、「また壊して!、この前も気を付けなさいと言ったでしょ!」と言うのでは、子供の気持ちは180度違ってきます。

初めの方は、「壊れたけど、お母さんは私が手伝ったことをありがとうと言ってくれた。今度は壊さないようにしよう」と思うかもしれませんし、あとの方は、「もう、手伝いなんかイヤだ!」と思うことでしょう。


このような特別なことでなくても、ふだんの生活の中で、我が子をほめてやることはいっぱいあるはずです。特別に良いことをしたときにほめようと、その機会を待つのではなく、ちょっとしたこと、人に優しかったり、親切な行為をしたとき、あるいは、何かをして満足そうなとき、なにかが出来たと本人が感じているようなとき、「○○ちゃんの優しいところが素敵よ」、「よかったね」、「すごい、すごい」、「きれいに出来たね」、「よく遊んだね」、「自分で出来たんだ」と、言葉にして言ってやることが、子供のやる気と正義感を育てるのです。


ほめ上手になることは、育て上手にもつながってきます。大げさにほめるのではなく、ちょっとした行為にちょっとしたほめ言葉が有効なのです。「そうは言っても、いたずらばっかりしているのに、そんな優しい言葉なんか言ってはおれない」と思う気持ちを飲み込んで、その子の、一つでも良いところを見つけて、一日一回は、ほめてやってください。一日一回ほめることを意識してやっていると、その子の良いところがどんどん見つかってきて、ほめる回数も増えてきます。最初に言ったように、大人でも、「きれいだよ」とか、「愛しているよ」と言われたときの、心地よさをおもいだして、かわいい我が子にも、そのような気持ちをいっぱい与えてやってください。