最後のつぶやき(平成13年度)平成14年3月

平成13年度の最後の「園長のつぶやき」となりました。園長のつぶやきも何年も続いていますが、いつも原稿締め切りになって催促を受けながら書いています。テーマが見つかるまでは一行も書くことができないでいます。常に新しいテーマで書くことの辛さです。


2月10日に子供の城の落成式を行いましたが、その前々日の8日は、私の長女の結婚式でした。「この忙しいときに!」と思いながらも、結婚式に望みました。忙しさのおかげで、父親としての娘を取られるというような邪念を抱く暇も無く、あわただしさの中で、何とか無事に済ますことができました。


その間なし、今度は、幼稚園の先生の、旦那さんのお母さんが亡くなられ、お通夜とお葬式に参列しました。その先生には、小学校1年生と幼稚園年中組の二人の娘さんがいます。亡くなられたおばあさんにとっては内孫になります。出棺のとき、泣き狂う長女と、どこまで理解できているのか、周りの雰囲気に神妙な顔でうつむいたままの次女の、二人の娘の痛々しい姿が目に焼きついています。


結婚やお産もあれば死もある、当然のことながら、生きている以上、自分の身に降りかかるさまざまな出来事を、そのまま受け止めていかなければなりません。
義母を亡くしたその先生から手紙を貰いました。その一端を本人には無断で紹介します。


「‥(略)‥‥。長い闘病生活の間に、私たち家族は少しずつ気持ちを落ち着かせることができ、お母さんの最後の日を心静かに迎えました。苦しそうに息をするお母さんに、旦那は、『もうがんばらんでいいよ。今までよくがんばったよ。もう、いいよ』と、声をかけてあげたそうです。私は、家で、亡くなったお母さんが帰って来られるのを待ちながら、いろいろなことを思い出していました。一番思い出すのは長女がお腹に授かったときです。(注・結婚7年目) 庭で、お母さんに、『お母さん あのね 赤ちゃんができました 私‥‥』っていうと、お母さんは、そこに座り込んでしまって、『ちょっと待って‥腰がぬけたよ ホント? ホント?』と、ただただ、うれしそうに笑ってくださいました。

そのときの顔が‥‥忘れられません。一緒に住んでいて、辛いこともたくさんあったけど、やっぱり、あのときの笑顔を思い出すと、(私にはとっても優しい母だった、そして、子供たちにとっては、優しさ100点満点のおばあちゃんだったのだ)と、思えるのです。そして何より、私の大好きな旦那を生み育ててくださったお母さんです。私にとっても大切な人だったのです。‥(略)‥‥」と言う内容の手紙でした。


小さな孫二人は、「おばあちゃんはお星様になった」のだと聞いて、毎夜、夜空を見上げていると言います。二人の幼い娘さんにとっても、大変辛い経験だったことと思いますが、身近な人の死に直面することは、命の大切さを学んでいく大きな試練でもあったわけです。


話は変わって、先日、発表会の予行演習がありました。みんな落ち着いて堂々とした姿でやっています。予定のプログラムが終わったとき、年長組の先生が、「いかがでしたか?」と尋ねるので、「う~ん、少し涙が出たよ」と言うと、「え~、どこでですか?」と聞くので、「年長組バトンのとき」と答えて、ホールから園長室に帰ってきました。

そして、昨日、子供たちみんなに、がんばっていることをねぎらいながら、各保育室を回っていましたが、その年長組の部屋に行ったとき、担任がクラスの子供たちに、「ね~、この前の予行演習のとき、園長先生、みんなのことほめてくださったことを話したよね」と言いながら、「どんなことだったか、直接訊いてみようよ!」と子供たちを煽ります。すると、すぐさま女の子が、「バトンどうだった?」と訊くので、「うん~、みんなかわいくて上手だったので、涙が出た」と言うと、男の子もすかさず、「ソーラン節はどうだった? 泣いた」ときたので、「ううん、みんな元気でかっこいいので、園長先生も一緒に踊りたいと思った」と答えました。すると担任が、「園長先生、予行演習が終わったとき子供たちに、園長先生の言葉を、今と同じように伝えたら、子供たちは、なんて言ったと思います?」と訊きます。「???」と考えていると、「女の子が、園長先生はまだ若い!」と、そう言った子を指差しながら、教えてくれました。その子も、ニコニコしながら、うなずいています。

この時期、毎年のことですが、保育室を回ると、子供たちの成長振りを改めて感じざるを得ません。みんな落ち着いていて、堂々とした振る舞いなのです。年少組の子も、年中組の子もひとまわりふたまわりも大きく成長しているのです。そして、年長組のクラスに行くと、子供たちみんな明るく私を迎えてくれるのですが、その明るさゆえに、余計に悲しさがこみ上げてくるのです。もう、すっかりお姉さんお兄さんになっていて、「あ~、この子達とはもうすぐお別れなんだ」と、胸がジ~ンとしてくるのです。本当は、子供たち自身が、担任や友達との別れが近づいていることをしっかりと認識しているのです。それだけに、笑顔で迎えてくれることが、余計にいじらしく、また、人の気持ちを思い遣る素敵な子供たちに成長してくれていることを誇りに思うと同時に、出会いの後は必ず別れが来ることを改めて実感しています