巣箱(平成15年度)平成16年1月

12月半ば過ぎ、事務室の窓側から元気のいい男の子の声が聞こえます。「この巣箱を理事長先生に渡してください」と、事務の一樹先生に手渡しました。そのうえ、「わかりましたか」と、念を押しています。それも、その言い方が担任にそっくりなのです。


その巣箱というのは、4月1日にスタートする新生三次市の合併を記念して、観光協会から有料で配布されているものなのですが、自分たちでビスを使って組立てるようになっていて、その子のお父さんと一緒に組立てた巣箱を、幼稚園の園庭に取り付けてほしいということも伝えています。


その巣箱には製作者名も記入するようになっていて、ちゃんと名前が書いてあるので、実の愛称を書きますが、年長組の「たっちゃん」が持ってきたのです。すぐにでも取り付けてやりたかったのですが、すごく忙しくしていた時なので、その時間も取れないでいました。そのうち冬休みに入りましたが、幸いにもたっちゃんは預かり保育(延長保育)のプレイルームを利用しているので、本人はまだ幼稚園に来ています。ずっと気にして過ごしていたのですが、プレイルームも休みに入る1日前の26日にやっと時間がとれたので、たっちゃんを誘って、園庭のイチョウの木にハシゴをかけて、「小鳥が巣をしてくれるといいね」と言いながら、巣箱の入り口を東側に向けて、たっちゃんと一緒に取り付けました。入り口を東に向けて取り付けないと、なかなか住み着いてくれないという記憶があったからなのですが、早起きの小鳥は、太陽の昇る東向きがいいのだと納得しています。

実は私も、その合併記念の巣箱を20箱も購入しています。忙しくて、まだ2箱しか組立ててはいないのですが、お正月に家の裏山に取り付けました。落ち着いたら、残りの巣箱を組立てて、園庭の木々に取り付けようと思っています。


昔のことですが、私が小学生の頃、自分で巣箱を作って、山に行き、木に取り付けていたことがあります。それは、自然を守るとか、小鳥を労わるとか高尚なものではありません。自分で飼いたかったからなのです。
山に巣箱をかけて、時々、様子を見に行きます。木陰に隠れてじっとしていると、「ヤマガラ」が出入りしています。「やった!巣をしている!」と大喜びです。そのヤマガラが巣箱から飛び立つのを確認して、木に登って巣箱のふたを開けてみると、ヤマガラのヒナが6羽生まれています。ヒナは恐れるように顔をそろえて縮こまっています。まだ産毛だけです。まだ、あまりにも小さすぎるので、ふたを閉めてそのままにしておきます。何日かして行ってみると、すっかり羽も生えそろい、近いうちに巣立ちそうな様子です。そのヒナを取り出し、かごに入れて家に持って帰るのです。


家には縦長のヤマガラ用の鳥かごがあります。そのヒナを鳥かごに入れて誰もいない部屋に置き、鳥かごに布をかぶせて暗くして静かに置いておきます。しばらくすると、小鳥が落ち着いてきます。その間に、キナ粉とホウレン草ですり餌を作って、それを箸の先に付けて口の中に入れてやります。最初は無理矢理に押し込みますが、慣れてくると、箸の先のえさを見ただけでも「チイー、チイ」と一斉に口を開けます。成長すると、オノミ(種)を与えます。それをくわえて、止まり木に止まり、足に挟んで口先でコツコツとたたいて中の実を取り出して食べます。ヤマガラの鳥かごには出窓がついています。その出窓に小さな餌入れを糸でぶら下げておくと、ヤマガラはくちばしと足を使ってその糸を手繰(たぐり)り上げ、餌をついばみます。

昔は街頭で、鳥かごの外側に赤い小さな鳥居とお宮を作って、ヤマガラにおみくじを引かす商売をしている人がいましたが、今は見る由もありません。たっちゃんの持ってきてくれた巣箱のおかげで、このようなことを思い出したのです。今は、野鳥を捕ったり飼育したりすることは禁止されていますので、許可なしには飼育できません。ヤマガラがせっかく巣箱の中でヒナを育てているのを持ち帰るのですから、かわいそうなことをしたものです。ましてや、飼っているうちにいつかは死にます。しかしながら、私にとってはとても楽しい経験だったのです。その楽しい経験の思い出と、大人になってから、かわいそうなことをしたと思う気持ちとが相まって、小鳥や小動物に対する思いやりや労わりの気持ちもはぐくまれてきたように思います。


こんなこともありました。「十姉妹」を十数羽飼っているときのことですが、大きなきれいな貝殻を二枚見つけました。これを見て水入れと餌入れにちょうど良いと思いつき、水とアワやヒエを入れて鳥かごのなかに置いておきました。次の日、鳥かごのところに行ってみると、なんと、全部、死んでいるではないですか!原因は、その貝殻についていた塩分が悪かったのです。ショックでした。


子供たちは虫や昆虫を取って遊ぶことが大好きです。小鳥や犬を飼うことも大好きです。当然のことながら、自分の捕まえたものやかわいがっているものが、いずれは死んでしまいます。喜びや悲しみにも直面します。そのような心の葛藤が、子供の心をはぐくみ、命の尊さを知り、労わりの気持ちやその子の人格としての穏やかさも備わってくるのです。


日本昆虫学会の会長も言っていました。昆虫は子供が捕って死なす以上に繁殖力を持っているから、しっかり捕まえて遊びなさいと。
自然を破壊しているのは、農薬や排水や排煙、開発なのです・・・