SDGsとEducation2030

これまでのキー・コンピテンシーやニュー・ノーマルな教育のあり方はOECDのDeSeCo(コンピテンシーの定義と選択)の会議において、「人生の成功」や「良好に機能する社会」という視点を通じて考えられたものです。それはOECDがこれまで教育関係のプロジェクトが経済に資するための教育という側面で見られていたことを批判されてきたように、これまでのGDPに着目された経済だけに注目された「経済的成長」から、貧困や格差といった問題にも着目し、社会全体の成長を目指す「包括的成長」へと変化していったことに起因します。

 

OECDは設立50周年に「より良い暮らしのための、より良い政策」というミッションを示しました。それは正にGDPを高めるといった経済を目的としたものではなく、究極的に人々が心身共に幸せな状態(ウェルビーイング)を作り出すことに目的が変化していったことを示しています。そして、そのうえで、個人レベルのウェルビーイングが経済資本や人的資本、社会資本、自然資本として、社会レベルでのウェルビーイングにも貢献し、結果として個人にも還元される循環関係にあるとしました。

 

そして、これからの社会においては人間自身も大きな生態系(エコシステム)の一つとみなす考え方を2018年にOECDが示しました。それは「包括的成長」は「経済的成長」だけでは捉えることのできない、貧困層などを含めた社会全体としての成長を含めたものとして捉えていたのですが、この概念をより広くして、人間だけではなく、生物全体についてのウェルビーングを考えるということとしたのです。それは例えば、今生物の多様性が急速に減少していますが、結果的にそれは将来、人間社会においても直接的な影響を与えることになるといったように、単に人間の生活におけるウェルビーイングを考えるのではなく、人間も大きなエコシステムの一部であるという前提で考えることが求められるのです。これらのことを含めて、Education2030プロジェクトでは、望ましい未来のあり方について「私たちが実現したい未来」として議論を行ってきたのです。

 

これまで、ニュー・ノーマルな教育やキー・コンピテンシーというものを紹介してきましたが、その前提として、今後どういった人間社会を形成していくのか、そして、それが人間社会だけではなく、もっと大きな地球規模の環境のあり方を含めたウェルビーングに向けた未来のために今できることが含まれているということがOECDでは議論されており、教育においてもこの考え方が中心になって変化が起きているということが言われているのですね。つい、保育をしていても、ここまで大きな視点を持って取り組むということはなかったのですが、世界基準で保育を考えていくと決してこういった議論の内容とは無縁でいてはいけないのではないかと思います。特に国連が出したSDGs(持続可能な開発目標)が声高に言われていますが、それと保育や教育は密接に関わっているといえますし、Education2030での「私たちが実現したい未来」を考える上で、共通する目標でもあるといえるのです。